大人になったらビーチ・ボーイズをカヴァーしたいと思ってた
――なんと9か月ぶり! ものすごいスピードで、ニューアルバム「Exhibition Of Love & Desire」が届きました。
CMJK:アイディアがばんばん出てくるもので(笑)。
――素晴らしいです(笑)。まずジャケットを見て、「サイケだ! ストーンズかビートルズか!?」と。前作のあと「次はポップでカラフルな作品を」とおっしゃっていた意味が、ストンと腑に落ちました。
CMJK:それは非常に嬉しいです。ジャッケットは、「サージェント・ペパーズ」や「サタニック・マジェスティーズ」を意識したんで。
――そして今回はなんと、二人がジャケットに登場しています。
CMJK:イヤでしたよー! ちんちん出した方がいいです、ちんちんの写真撮ってもらった方がマシです!
ピコリン:ひゃはは(笑)。
――…それを聞くと、電気グルーヴの血が流れているのがわかります。
CMJK:流れてますよー、ちんちん出します(笑)。
――しまってください! で、なぜ衣装を袴に?
CMJK:知りませんよー。
――ビートルズやストーンズが、制服や軍服、盛装だったので、その日本的アプローチなのかな? と思いました。
CMJK:あ、それいいですね。採用です(笑)。
――とほほ。では音の話を聞かせてください。まず、カヴァー曲「Good Vibrations」に驚きました。ビーチ・ボーイズとCutemenの組み合わせは想像を超えていて。
CMJK:ピコリンがいつも「潤さんも歌ってくださいよー」ってアホみたいに言ってくるんで(笑)、コーラスがいい曲を選ぼうと。
ピコリン:ていうか僕は、ライヴでいちばん盛り上がる曲を潤さんに歌って欲しかった。
CMJK:なんで俺が、いちばん盛り上がる曲を歌うんだよ。おかしいぞ!
――そこはピコリンおかしいかも(笑)。
ピコリン:えっ。
――でも、いつも仮歌でCMJKの歌声を聴いているピコリンが、「またヴォーカルを取って欲しい」と思うのも納得できます。
ピコリン:ですよねー。
CMJK:なに言ってんだ! 趣味でやってるバンドでも部活でもないんだから、おかしいだろ! ビジネスモデルとして破綻してるよ!
ピコリン:あう。
CMJK:自分で歌うとなったら、歌詞を書くのは恥ずかしくてイヤなんで。カヴァーしかないなと。もう、いつ死んでもおかしくない歳になってきてるんで。いつかやりたいと思ってたことを、どんどんやろうと。20歳ぐらいから、大人になったらカヴァーしたいと思っていたビーチ・ボーイズの「Good Vibrations」を、とっととやった訳です。
――いろんな引き出しがあるのは判っていたのですが、この王道曲が、ちゃんとCutemenになることに驚きました。
CMJK:引き出しはありますよ、売るほどあります(笑)。Cutemenぽく聴こえるかもしれないですけど、すべてビーチ・ボーイズに準じてる。ブライアン・ウィルソンのパートを僕が歌って、コーラスワークは完コピしてるんです。まず音を拾って、どう歌ってるか解析して。夏休みの宿題くらい大変でした(笑)。
ピコリン:僕はビーチ・ボーイズをちゃんと聴いたことがなくて、サビぐらいしか知らなかったのが。通して聴いたら、「なんだ、この複雑な展開の曲は?」って。
CMJK:うん。僕があの曲をはじめて聴いたのは13歳で、何十年もただのポップソングと思ってたんです。それが、こんなに頭がおかしい狂った曲だったのか、と、改めて愕然としました。「今まで何を聴いてたんだろう?」と。
ピコリン:(笑)。
――よく出来てるポップソングこそ、そうですよね。
CMJK:そそそ。なんか今は、オルタナティヴというのが言い訳になる気がしていて。いい曲なりいい歌詞を書くことに、正面から向かおうと思いました。
人間の愛と欲望の歌を
――今作「Exhibition Of Love & Desire」の構想は、ずいぶん前からあったようですね。
CMJK:はい。前作「Humanity」は久しぶりだったし、あまりCutemenらしくないものを作ったらみんなガッカリすると思って、らしさにこだわったんですけど。やはり4枚目ともなれば、幅を広げたいですし。とはいえ無理をしたのではなく、「俺らには元々幅があるよ」「これくらい出来るんだよ」と、きちっと伝えたかった。
――ではレコーディングも、じっくりと?
CMJK:それが、延べ日数で言ったら一か月ぐらいじゃないかな? 前作は一年ぐらいかけたんですけどね。
ピコリン:半分は先月(7月)録りました(笑)。
CMJK:それが、もう出来た! 一年も経たないでアルバム出すって、プロモーションになるじゃないですか(笑)。そういうのをやってみたかった。
――あはは。
CMJK:半分冗談ですけど、早くから構想があったのは確かで。最初は「Singularity」ってタイトルのアルバムを作りたかったんです。
――すみません、シンギュラリティという言葉をはじめて聞きました。
CMJK:“技術的特異点“って意味なんですけど、テクノロジーが人間を追い越してしまった状態というか、AIに支配されるとか。それをコンセプトに、80’sっぽいエレクトロにガチっと寄ったアルバムにしようと思ったんです。ただ、そのプリプロをしていく中で“ファッショ・ウェイブ(fashwave)”という動きを知って。その一環として捉えられるのは非常にイヤだし、だから、すべてを白紙にした。何もかも消した。もうね、デペッシュ・モードとかもファッショ・ウェイブって言われて超ブチ切れてんですよ。
――デペッシュ・モードがファッショ?
CMJK:我々の聴いてきたニューウェイヴが、トランプ主義者に好かれてるんですよ。デペッシュ・モードの「People Are People」って曲は、ホント真逆のことを歌ってるのに祭り上げられてしまってる。なので、そこからは逃げたかった。で、どうしようか? ってなったときに、すでに「Cucumber」と「Forever」の2曲はあって。
――2月にシングルとしてリリースされています。
CMJK:“きゅうり食いたい”とか、“現実で辛くたっていいや、VRの世界で幸せだったら、俺いいや”っていう歌じゃないですか? どっちも、人間の色々な欲望を歌ってる。で、「Exhibition Of Love & Desire」ってタイトルを思いついて、人間の愛と欲望の歌をバババーーーっと書きました!
ヤバい、これアタシのことかも?
――人間の欲望って、ホントそれぞれですよね。
CMJK:“モツ食いたい”とかね、僕のことですけど(笑)。インスタ映えしない食べ物が好き、っていう。
――時流に逆行(笑)。
CMJK:あと男で、40歳ぐらいに“男セカンド・ヴァージン”という純情になるヤツが多くて。「好きになった姉ちゃんとすぐできて逆にショック!」とか、もうバカなことばっか言ってて。それを女の子にリサーチしたら「男純情ウゼぇー!」って言うから「Heat Of Love」が出来たり。サウンドは、近年のイギリスのディープ・ハウスを意識しつつ。
――男純情…!
CMJK:最近は一線を超えただの、超えないだのウダウダ言ってますが、昔のミュージシャンなんてもっとハチャメチャでしたよね? ね? そういう人たちをギクっとさせようと「It’s Not Love」を書いたり。本人はあの人を愛してると思ってるけど、それは執着心だよ、愛じゃないぞと。
――一線を超えた人だけでなく、ストーカーや、恋人やアイドルを刺す人。自分の恋心が報われるものと信じている人のエゴも、愛ではないなと思います。
CMJK:なので、It’s Not Love、It’s Not Loveと何度も繰り返してみせる(笑)。あと「It’s Not Love」では、Cutemenなりのドファンクを演りたかったんですよ。ファンクは一定のグルーヴの心地よさが基本なので、同じことを延々と言ってやれると思って。
――テーマとサウンド、見事なマッチングです。
CMJK:あと、元カレ元カノをぜんぜん忘れられない人に、「Hurt Me」って曲を作ったり。まあ、ネタに困ることはなかったですよ。「ヤバい、これアタシのことかも…ギクっ」て、なってもらえたらいいなあと。
――そんなさまざまな欲望、ピコリンにはどうでしたか?
ピコリン:ううーん。
CMJK:ピコリンって子供が3人いるじゃないですか? たぶん定期的に、発情期とそうじゃないときのバイオリズムが来るのをわかってるんじゃないかなあ(笑)。ふつうの人の欲望とは、ちょっと違うと思うよ(笑)。
ピコリン:ええーっ、そういう話なんですか?
――違います…。愛と欲望の曲たちは、どうでしたか?
ピコリン:人の数だけ考え方はありますからね。感じるところ/自分はそう思わないなというところが、分かれる歌詞なんじゃないかな。あ、僕もモツが好きです(笑)。
CMJK:そこかよ。
ピコリン:ふつうの肉より、内臓系が…。
CMJK:「M.O.T.S.U」は、東京オリンピックに来る外国人にむけて作ってみようと思って。原宿に行くのもいいけど、日本のソウルフードを食べに新橋なんかに行ってみてよ、と英語で。
ピコリン:このアルバムで、僕のなかで鍵になってる曲は「Hurt Me」なんです。前作の「Humanity」の「Mind Wandering」と似た位置づけ。そう派手ではないんだけど、印象に残るような。曲も歌も。
――「Hurt Me」は後半で転調して上がって、そのあと上がったままにならず、また元の音程に戻ってきますよね。聴いていてザワザワしたのですが、何でしょう?
CMJK:そういうことは、小室さんに聞いてください(笑)。まあ、我々的には普通ですよ。でも確かにダンスミュージックって、ファンクもパンクもテクノも、コードが変わらない方がよしとされているので、あんまり転調はないんです。ですが今回ワタクシどもとしましては、ビーチ・ボーイズのカヴァーをしてしまったので、あれくらいの転調はオリジナル曲でもしてみたくて。
僕なりのヴァンゲリスごっこ
CMJK:ピコリン、キーの話をしとけよ。
ピコリン:ああ。ずっと声を出してなかった状態だったのが、ここのところ3~4か月おきにライヴをやって、高い声が出るようになってきてるんですよね。
――この年齢で、声域が高くなっているのですか?
CMJK:補足すると、レンジが広がって、上がもっと出るようになったんですよ。キーを急遽上げたのが2~3曲あります。「Sympathizer」のサビとか、昔のピコリンでは出なかった高さからはじまってて。今回、ヴォーカリストとしての進歩が目覚ましい!
――40代で声域が広がるって、すごいことですよね。
CMJK:そそそ。ふつうね、長年やってるとキー下げてくんですよ。でも、この人は上げてる(笑)。異常事態! そこは、ぜひ聴いてもらいたいところです。
――ピコリンは、心も肉体も老いていないイメージ。
ピコリン:若い頃は、原付とかでいうリミッター的なものを自分にかけてた気がするんです。本当ならスピードは70~80kmは出るのに、原付だと60km以上出すと危険だからって抑えるじゃないですか? 若いころは、声を出すまえから「無理」と思ってたんじゃないかな。
――心にリミッターがかかっていた。
ピコリン:んー、がんばれば出来たんのかな? とも思うんだけど。今はリラックス状態なのか、素直になったのか…。
CMJK:「Sympathizer」のサビの後半の部分で、高い声で“oh~oh~♪”って歌うところがあって。難しいんじゃないか? レコーディングできないんじゃないかな? って思ってたら、いとも簡単に歌って、とっとと帰っていったんで(笑)。
――20代のときも定期的にライヴをやっていたけれど、リミッターがかかっていた。再結成からの飛躍には、きっかけがあったのでしょうか?
ピコリン:これ言うと怒られそうだけど(笑)。昔のレコーディングは、失敗しちゃいけないってプレッシャーがすごかったんです。でも今は、何かあっても潤さんが直してくれるって安心感がある(笑)。
CMJK:それでいいんだよ、昔と今はまったくレコーディングが違うから。昔は、ピッチが当たるまで1000本ノックだったんですよ。今は、正確さよりも歌の魅力、声のフェロモンを優先して、ちょっと音程が違ってもリズムがズレてても、そういうフェロモンが出てたらOKにしちゃう。外れてるものは機械で直せるから、みんなそうやってるよ。
――時代がピコリンに追いついてきましたね。
CMJK:いや、でも今回もべつに直してないんですよ! それも凄いところです。
――CMJKの構想、曲、歌詞、ピコリンの歌。すべてが新しい領域にきているのが伝わってきました。
CMJK:勢いで作ったものじゃないですからね。ポップでカラフルでサイケデリック、と最初から言ってた通りのものをギュっと真空パッケージにしたんで。狙い通りの作品が出来たと思うし、もっと言うなら、「Futurity」「Humanity」で、ビートルズでいう「Rubber Soul」「Revolver」的な世界観は出せたと思うので。そこから先に行くには「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」「Magical Mystery Tour」、ビーチボーイズの「Pet Sounds」のようなものを作りたかったんで。はい。
――通して聴くと、映画のような印象も受けました。ラストの「Contact」の最後の虫の音が、1曲目の頭の虫の音といっしょだと気付いたとき、ザワっとして。SFっぽい、終わらない映画の中に立っているような。
ピコリン:映像的なアルバムですよね。
CMJK:“ファッショ・ウェイブ”から離れようとして指針がなくなって悩んだときに、「そうだ。俺もうオジサンで、ミュージシャンとしてもベテランなんだから。昔から敬愛してやまないヴァンゲリスとジョルジオ・モロダーの世界を取り入れよう」とピンときて。なので、あの始まり方と終わり方なんです。僕なりのヴァンゲリスごっこ。だから、映像的と言ってもらえるのは、非常にありがたいです。
クラブミュージックの呪縛から解き放たれた
――では最後に、初回限定盤特別ディスク「ReHumanity」についての話を聞かせてください。錚々たる方々が、リミックスを手がけていらっしゃいます!
CMJK:初回限定盤は2枚組で、「Humanity」の完全リミックス盤がついてくるわけです。素晴らしい面々が手がけてくれてます。
――どんなきっかけから、この豪華な話が?
CMJK:福富幸宏さんと飲ませていただいたときに「交換リミックスしようよ」とおっしゃって。「なんですかそれ?」って聞いたら、「海外では普通だよ、お互いノーギャラでリミックスしあうの」って。「ホントにやってくれんですか?」って、お願いしたんです。
――へー!
CMJK:じゃあアルバム全曲分、声をかけられるかな? と思って、自分で連絡先を知ってる範囲でお願いしたら、全員が全員ふたつ返事でOKしてくれたんで。たとえば、卓球というか電気グルーヴだと僕にリミックスを依頼してくるのは考えられないので。卓球が作詞作曲した楽曲を僕がアレンジすることが年に何回かあるんですが、「次はタダでやるよ」とか。
――物々交換のような。
CMJK:そうですそうです! 僕が10曲分、無償でお返しをしなきゃいけないって企画です(笑)。
ピコリン:すごい(笑)。
CMJK:でもこれ、お金払ってたら大変なことになってたからな?
ピコリン:確かに!
CMJK:ほんとに感謝しかなくて、素晴らしい出来なので。みなさん、初回限定盤を買ってください! リミキサーの皆様には、尊敬と感謝の念しかありません!
――特に印象的な曲はありますか?
CMJK:言い出しっぺの福富さんのリミックスは、ほんとに素晴らしくって。もうツッコミ所ゼロ! あと卓球が、さすがにさすがに素晴らしくて。マスタリングするときに、他のみなさんの質感を、福富さんと卓球のものに合わせました。
――「Humanity」が、こんな風につながると想像していませんでした。
CMJK:僕もですよ。卓球のリミックスは、彼がDJなだけあって、DJでかけて威力を200%発揮するみたいになってて。DJで使うことで、まだまだつながっていくんですよね。
――ぐっときます。
CMJK:ですよね。みなさん、ヴォーカルも使わないだろうし、元々の音色も使わないだろうな…と思ってまとめたデータを送ったんですけど、全員が全員「パラでくれ」という。パラっていうのは、一個一個のトラックをバラバラにして、ってことで。リミックスをお願いした後は待ってたらいいのかな、と思ってたんだけど、全員のオーダーに応えてたら一か月かかっちゃいました(笑)。
――そう言われるのは、ミュージシャン冥利につきるのでは…?
CMJK:ねえ(笑)。そんな丁寧にしてくれるとは思わなかったんで、心からありがとうございますっていう。ただ、卓球とかがこれだけやってくれると話題になるでしょう? 本編がしょぼんとならないように、っていうのがプレッシャーです。実は(笑)。
――でも、間違いなくやってよかったですよね。
CMJK:このリミックスで、クラブミュージックの呪縛から解き放たれた感じがあって。今までのステレオタイプなクラブミュージック以外をやってもいいかな? という心の余裕が生まれましたね。
――超絶売れっ子で、日々追われているイメージのCMJKから、解きはなたれた/心の余裕という言葉を聞くと、人の力ってすごいんだなと感じます。
CMJK:そうですね。なんだろう、思ったよりCutemenが愛されてて嬉しいな、という気持ちになりました。それは、ビクターのスタッフとかにもね。幸せ者ですよ。
(構成・文/元生真由)
Cutemen『Exhibition Of Love & Desire』

2017年9月6日(水)発売
初回限定盤(2DISC)VIZL-1227 定価:\3,500+税
通常盤(1DISC)VICL-64833 定価:\3,000+税
初回限定盤(DISC-1)・通常盤共に全10曲収録
1.Love From Different Dimension
2.M.O.T.S.U
3.Sympathizer
4.Forever
5.Good Vibrations
6.Cucumber
7.It’s Not Love
8.Heat Of Love
9.Hurt Me
10.Contact
初回限定盤特別ディスク『ReHumanity』(DISC-2)リミキサー一覧
1.Get Ready(For The Childhood’s End) = MOP of HEAD
2.Celebration = サワサキヨシヒロ
3.Born To Love You = CMJK
4.終末時計 = 福富幸宏
5.Get Ready (For The Humanity’s End) = 石野卓球
6.Gasoline Car = HONDALADY
7.Loser = TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
8.Mind Wandering = Sigh Society
9.The Light =KING OF OPUS
10.Sayonara = TAICHI MASTER