「どんな音楽もエレクトロに取り込みたい」 2か月連続リリースとなるシングル「Fish」「Time Rider」でCutemenが新たに拓いた世界とは?

近未来よりもっともっともっと未来の“遠未来”

――もの凄いリリース・ラッシュになるのでは!? と感じたアルバム「Exhibition Of Love & Desire」から、2年1か月という時間が経ちました。11月27日に「Fish」、12月25日に「Time Rider」。このタイミングで、2か月連続でシングルを配信リリースすることになったのは?

CMJK:やりたい事がいっぱいあると言っておきながら、2年も経つとは! 反省してます!

――いえいえ。どんな2年でしたか?

CMJK:復活後の第1作「Humanity」と前作「Exhibition Of Love & Desire」で、まあまあやり遂げた気になってて。新しいものを作るとしたら、超えなきゃダメじゃないですか? 自分でハードルを上げてしまってましたね。

――今回は歌詞のアプローチが激変しましたね。何があったの? と思うほど。

CMJK:そう、変わりましたね。新しい世界にピンと来たので始めたんです。

――Cutemenは91年のデビュー時から“Future is now”と、“ここが未来だ”と言い続け、その先のディストピアや宇宙を描いていました。確かにヒリヒリする作品も多かったけれど、今作を聴いて“ああ、これまでは怒りや痛みを歌う余裕があったんだな”と感じたのです。「Fish」は絶望の果ての“無”ではないか、もはやディストピアを超えて人が居ない世界へ行ってしまったのではないか? と。

CMJK:その通り! そこで締めちゃってください!
ピコリン:あははは(笑)。
CMJK:僕はずっと、“近未来はディストピアかもね”ってアプローチをして来たけど、もう、それも当たり前に思えちゃってね。誰でも思いつくというか、現実的でしょう? だったら今度は遠未来じゃねえかと。

――なるほど、新しいモチーフが見えたのですね。こんな閉塞感だらけの日本なんてディストピアじゃないか! 脱出するぞ、と次の次元に行ったのかななんて考えていました。

CMJK:そうなんですよね、今がすでにディストピアだって気はしてる。
ピコリン:うんうん。
CMJK:だから、もっともっともっと未来。人間がいなくなった後はどうなってるんだろう? って考えて「Fish」になったんです。

平成最初の“ぼくは魚”と、令和最初の“ぼくは魚”

――そこで登場した言葉が、“ぼくは魚”。1991年のデビュー作「Love deeep inside」のサビとまったく同じ言葉、そしてクマノミというアイコンも同じです。

CMJK:サビが同じ歌詞って、普通やらないっすよね(笑)。サウンドは凄く進化させてるつもりなんですけど、マインドは原点回帰。

――同じ歌詞でも、“ぼくは魚”と書いた気持ちは全く違いますよね?

CMJK:そうですね、デビュー曲の魚は海の底のダンスフロアで踊ってるぐらいだから。ハッピーですよね? 今回は“人間って生き物が居たらしいけど滅んで良かった!”って魚が言ってるような(笑)。
ピコリン:僕は、これがCutemenだなって思いましたね。平成最初の“ぼくは魚”と、令和最初の“ぼくは魚”なんですよ(笑)。
CMJK:ええー、Cutemenってそんなに元号を意識してるバンドなのか?
ピコリン:新しい時代ですからね!
CMJK:おじいちゃんっぽいこと言うなあ(笑)。

――元号が登場するとは考えてなかったです!

ピコリン:実際に原点に戻った訳じゃないけど、また新しい時代のスタート地点に立ったってイメージです。

――当時、“ぼくは魚”と歌った頃の気持ちを覚えていますか?

ピコリン:音楽をやっていくとは考えていなかったし、必死でしたね。音楽の現場に立って、判らない事だらけの“ぼくは魚”だった。今は色々振り返っての“ぼくは魚”。平成Cutemenを振り返る余裕がある。
CMJK:平成Cutemenってなんだよ!(笑)
ピコリン:元号は時代の切り替えだから。違うCutemenになった意識で、僕はいるんですけど(笑)。

――CMJKも元号を意識していた……?

CMJK:ぜんぜんっ(笑)。
ピコリン:僕の中だけで大きいんです(笑)。
CMJK:そっか、ピコリンは平成元年に20歳になったんだよな?
ピコリン:そうです!
CMJK:で、令和元年に50歳なのか。
ピコリン:キリがいい!
CMJK:ピコリンと同い年の人が飲み屋でそんなこと言ってたけど、つまんねー話だなーと思って聞いてたよ(笑)。とにかく元号の話はどうでもいいぞ(笑)。

AIに好みを把握されています

CMJK:ずっとカレーを作るのにハマってて、最初に玉ネギをじっくり炒めるんですよ。そのときにSpotifyで音楽を聴いてるんだけど、最近のサブスク、AIってめちゃめちゃ頭が良くって。聴けば聴くほど、僕好みの曲を把握してって「こういうの好きだろ?」って毎日毎日かけてくる。
ピコリン:へえー。
CMJK:そういうのを2年ぐらいやってたら、俺もこういうのを演りたいってイメージが固まってきて。エレクトロとオーガニックの融合みたいな。今回はアフリカの楽器カリンバを使ってるんだけど、遊びで作ってたのが「これ、Cutemenでいけるんじゃね?」って。

――トロピカルな要素も大きいですよね。新しい!

CMJK:うん、すごく開放的な曲が作れましたね。で、開放的な歌詞ってなんだ? と。「よし、人間が滅んだ後のきれいな海で泳ぐ魚にしよう!」と。ひゃー開放的(笑)。

――曲紹介の資料に、グリッチ・トロピカル・トライバル・エレクトロと書いてあったのですが、グリッチという言葉のニュアンスを教えてください。

CMJK:突拍子もない音がビャー、ヒュンヒュンって出てくるような。規則性が無いというか。ヒップ・ホップにはグリッチ・ポップっていうのが、エレクトロにもグリッチ・エレクトロってジャンルがあるんですけど、その影響は受けてますね。

――トライバルが、先ほどのオーガニックな音?

CMJK:そうですね。もう、面白いと思うものをどんどん試していって。

――CMJKは日本の先端のポップを作り続けていますが、Cutemenの位置付けは明確ですね。

CMJK:仕事は仕事なので、売れるものを作り続けたいですね。Cutemenはどうせバカ売れしないんで、好きなことをやりまくる(笑)。
ピコリン:あははは(笑)。
CMJK:これね、歌が乗ることでポップ・ミュージックに聴こえたら嬉しいんですけど、演りたかったのは、AメロBメロを繰り返してCメロ……という法則から逸脱したものなんですよ。

――前作でカヴァーした、ビーチ・ボーイズの「Good Vibrations」式ですね。

CMJK:そうそう! 曲が始まってから、2度出てくるのはサビだけ。普通ポップ・ミュージックって、AメロBメロを繰り返すでしょう? でも難解じゃなく、楽しく聴こえたらいいなと思ってて。
ピコリン:Aメロが頭で一回しか出てこないから、何度も聴いちゃいます。そこを聴きたくて。3回ぐらいループして聴いてるから、10分以上あるイメージ(笑)。
CMJK:長っ(笑)。
ピコリン:みんなも、Aメロが聴きたいからもう一回! ってなると思いますよ。3回はリピートして欲しいです。

レイヴ世代とEDM世代の分断を埋めたい

――そして、12月25日には「Time Rider」を同じく配信でリリースされます。

CMJK:まあ、ドライブデート・ソングなんですけどね。女の子をデートに誘うんだけど、乗るのはタイムマシン。

――ライヴでゴーっと歓声が上がるのが今から浮かびます。

CMJK:イギリスでね、レイヴ・リバイバルが来てるんですよ。日本で来るかどうかは判らないけど、90年代レイヴっぽいのを演りたいなと。それでいて、EDMしか知らない若者が聴いても違和感が無いものにしたいなと。レイヴ世代とEDM世代って分断してるんで。

――恥ずかしながら未だにEDMの明確な定義が判っていないのですが、その分断と、そして両方を取り込むアプローチを教えてもらえますか?

CMJK:90年代にクラブで遊んでいた人なんかは、ULTRA(JAPAN)なんかに眉をしかめるんですよ。「若者が半裸で騒いで」ってね。EDMの若者には「おじさんおばさんが暗いクラブで暗い音楽聴いててやだなー」って人もいる。どうしたら、EDM好きの若い子と、90年代のクラヴァー、レイヴァーの間を埋められるだろう? って考えたんですよ。

――うんうん。

CMJK:すごく単純で「そういう曲があったらいいな」って。曲そのものがタイムマシンの役割をしてくれて、90sと今を行ったり来たりするような。……って考えてたら、すぐ歌詞にタイムマシンって入れてしまいました。

――なるほど! このタイムマシンは、「Fish」で逃れたディストピア以前に行ってみるのかと思って聴いたのですが、そんな直截な意味ではなかったんですね。

CMJK:あ、そこは聴く人にゆだねてますよ。曲作りのスタートがそうだったというだけで、歌詞の中では人が生まれる前の類人猿の時代にも行ってますしね。
ピコリン:これは、潤さんにしか作れない曲ですよ。タイムマシンとは言ってるけど、潤さんは全部に行ってるから。
CMJK:類人猿の時代に行った事ないよ(笑)。
ピコリン:(笑)そこじゃなくって、音的な部分で! 90年代レイヴからEDMまで、ぜんぶ潤さんは体験してるでしょう? ずっとその場に居た潤さんにしか作れないと思う。
CMJK:ゴホっゴホっ。

――わかる! CMJKはたまに「あんなやつら」なんて嘯いてみたりもするけれど、ちゃんと対象を理解してるんですよね。

CMJK:いまdisられてますか(笑)?
ピコリン:違うよー、全部を聴いて全部を吸収して判断してるってことでしょ?

――そうです! BEAMS40周年の「今夜はブギー・バック -TOKYO CULTURE STORY-」(※欄外)をCMJKが作ったと聞いたときに、なんという適役かと思いましたもん。

ピコリン:そうそう、僕もそれ思いましたよ! 40年分の音楽をちゃんと聴いて体験して、しかも分析して自分でも作れるっていう。潤さんの凄さが凝縮されてますよね。

クリスマス・ソングなんかじゃねーよ!

CMJK:いろんな音楽を仕事でやって来て何十年も経って、いま思うのは、どんな音楽であってもエレクトロに取り込みたいなと。それが自分のスタイル。「Fish」ではアフリカン・ミュージックに挑戦したけどエレクトロに、「Time Rider」はレイヴとEDM両方の要素を取り込んで。

――まわりの方に聴いてみせたりはしましたか?

CMJK:ちょっとしました。一人、僕の凄い理解者がいて。内緒でフライングで聴かせたら、「Time Rider」は号泣した、と。「Fish」は意欲作ですねと。もう一人近所に住んでるディレクターにも聴いてもらったら、「Fish」凄い! 「Time Rider」判らん! って(笑)。
ピコリン:その人たちの反応は判りますねー。ずっと潤さんを見て来た人たちだから。

――ピコリンも、CMJKの素晴らしい理解者だと思います。

ピコリン:うーん? まあ、Cutemenは潤さんですからね。
CMJK:いやおまえ、それは違うだろ!
ピコリン:それだけ安心感があるって事ですよ。
CMJK:んあー?
ピコリン:ちゃんと歌えなくても、なんとかしてもらえる安心感(笑)。

――理解者と言ったのは、エディットって意味ではない(笑)。

CMJK:エディットの話をしても読んでくれる人は面白くないだろ! ピコリンも「Time Rider」の事を話せよ!
ピコリン:Cutemenからのクリスマス・プレゼントですね。
CMJK:ええーっ? ちげーよ、クリスマス・ソングなんかじゃねーよ!
ピコリン:12月25日に出すのに?
CMJK:オレはクリスマス・ソングが嫌いって言ってんじゃないよ? 作るなら、もっと徹底して本気のクリスマス・ソングを作るわ! って意味だよ。
ピコリン:僕の中ではもう、クリスマス・プレゼントだから……。

――おろおろ、聴き手にゆだねましょうか?

CMJK:なんか納得いかないなー(笑)。

真似できるもんならしてみろ(笑)!

――では最後に。今回は初めてインストゥルメンタルが収録されます。

CMJK:ボカロなんかで再現してくれたり、僕の音を研究してくれてるクリエイターもいるので。歌が無いのを聴いて、「こんな風に出来てるんだ!?」って参考にしてもらえたら嬉しいなと。

――CMJKの音の再現って出来るものなの?

CMJK:そりゃ出来ますよ。僕だって誰かのカヴァーをするときは、徹底的に研究しますからね。まあ、フレーズだけなら誰でも弾けるじゃないですか? 僕は音色を自分で作ってますから、「どうやったらこの音になるのかなー?」みたいに考えながら聴いて欲しい。真似できるもんならしてみろ(笑)!
マネージャー氏:けっこう演ってる人がいるんですよ。niconico動画とかYouTubeとかを見ると、ボカロ以外にもたくさん。意外なところに意外なカヴァーが上がってるので現状でも面白いし、そういう人たちがインストを聴いてどう反応してくれるのか楽しみです。

――制作サイドにも、そんな楽しみがあるのですね。

ピコリン:インストはクラブでもかけやすいしね。あと歌が入ってると、どうしてもそっちに意識がいっちゃうじゃないですか? 歌が無いと、いろんな音が入ってることに改めて気づいてもらえると思うんですよね。同じ曲なんだけど別モノに聴こえるのはホントに面白い。

――そして今後ですが、また2年空くのは無しですよ。

CMJK:それは無いです! まだ話せる段階じゃないけど、もちろん先のことは考えてます。先を見据えての「Fish」と「Time Rider」ですから。
ピコリン:うんうん。
CMJK:今回のリリースからInstagramも始めてみましたし。90年代にCutemenを聴いてくれていて、まだ再会できてない人たちにも届けていけるように頑張りたいです。

(構成・文/元生真由)

Cutemen『Fish』

22CT-45_500

2017年11月27日(水)リリース
22CT-45

※BEAMS 40周年記念プロジェクト「TOKYO CULTURE STORY 今夜はブギー・バック (smooth rap)」
https://youtu.be/L5X1bOPmUsk