Cutemenが、2年半ぶりの新譜『2121』で描く 100年後にあるかもしれない、10の未来の物語。

Cutemenが、2年半ぶりの新譜『2121』で描く100年後にあるかもしれない、10の未来の物語。

CMJKは未来から来たんじゃないか?

――新譜『2121』。世界がパンデミックに呑みこまれているこの時に聴いて、背筋がゾっとしました。

CMJK:これを作ってたのは昨年の9月10月11月なので、世の中がこんなになるって知らなかったんですけどね。計算してたわけじゃないです(笑)。ただ、僕はずっと警鐘を鳴らしてきました。今だから言うけど、特に『Humanity』のときは、トランプが大統領になったら人類の終わりが始まるなと思ってて。

――その通りな側面もありますね。

CMJK:だからといって毎回、思想を前面に押し出して説教くさいのも何なんで。今回は、情景や映像が思い浮かぶ作品にしたいなと思って作りました。

ピコリン:去年の秋、「Fish」のときにはすでに潤さんの頭の中で出来上がってたんですよ、この世界が! そのときは今みたいになるとは想像もしてなかったのに……。

――すごいですよね……。

CMJK:去年、廃業しようかと思うほど暇な時期があったんです。昨日まで順調だったものが無くなったり、楽しく生きてても何が起こるか判らないぞというのを、叩きのめすように思い知らされた。で、もう、やりたいことを先延ばしにしないで今のうちにやっちゃおうという気持ちが湧きあがりまして。

――何も無くなって、自分の感情に目がいったのでしょうか?

CMJK:ええ。人はどんな時代に生きてても現状に満足しない、だから夢を見るというのは、きっと100年経っても変わらないだろうなと思ってて。100年後の人は、100年前の(現在の)人を良いと思ってるかもしれない。そんなコンセプトを立てて、ババババっと『2121』全部ができました。

――100年後の人が、現在からの100年間を知った上で、今を羨むことなんてあるでしょうか。

CMJK:ちょっと『2121』の話から離れますが、今回の未曾有のパンデミックを機に、人類はもう元に戻らないと思ってるんです。人類のさらなる繁栄は無いだろうなっていうのは、僕ずいぶん前から思ってて。でね、Twitterとかでエゴサすると“CMJKは未来から来たんじゃないか?”って、よく見るんですよ。

ピコリン:僕もそう思ってます。

――すごく判ります!

CMJK:そういうのを見て、嬉しい自分がいるんです(笑)。で、オレがもし未来から来たんだったら、責任を持って“みなさん未来はこうですよ”ってアルバムを作らないといけないんじゃないか? っていうのもありました。

誰かのために生きるのが、人間にとっていちばん幸せだ

CMJK:そこで最初に出来たのが「Fish」です。人が誰もいなくなった世界。

――夜ジョギングをしているのですが、今、街から人がいなくなっていて。花は咲いて鳥も鳴いてるのに人だけいなくて、“これ「Fish」の世界だ……”と思いました。

CMJK:世界の経済活動が停滞して、地球全体の炭素量が激減してるらしいですよ。環境にはとても良くて、まあ「Fish」の世界ですね。曲を作ってた時はすぐにこんな風になるとは思ってなかったけど、でもね、僕こういうのが割とあって。Cutemenの次にやったConfusionで、『DIFFUSION』ってアルバムを作ったんですよ。“DIFFUSION菌みたいなのが噴霧される”みたいなイメージで。

――菌のかぶりものを着けてましたね。

CMJK:そうです。あれを出してすぐ、地下鉄サリン事件が起きたんですよ。めちゃくちゃバッドタイミング。だから今回“またかー…”って思ってます(笑)。“またオレやっちまったな”って。もう、体質みたいなもんです(笑)。

――え。じゃあ、知的で人道的なリーダーと歩む未来を描いたアルバムを作ってください!

CMJK:一応ね、『Humanity』では“こうだったらいいな”ってことを演ってるんですよ。歌詞でも。ただ、なかなか届かないし説教くさいんで。今回はイメージを届ける形にしようと。「Fish」のように人がいなくなる世界もあれば、「Cold Sleeper」ではCold Sleepできない下層の人を描いたり、あるいは、地球を脱出して他の惑星にいっちゃった人を描いたり。様々な未来の世界なんですけど、一貫して言えるのは、おそらく100年後の人達も現状には満足していないだろう……ということです。

――100年経っても人は変わらないですかね。

CMJK:NHK特集で、いま世界が誇る三人のトップクラスの頭脳と言われている人たちが“コロナ以降”について話しているのを見たんですよ。たとえばハンガリーは、コロナにかこつけて首相の権限が拡大して独裁国家になってるんですね。そういう国が増えるかもしれないと。自分だけが助かればいいという利己主義がはびこっていて、ポピュリズムやナショナリズムに傾いてきてるんです。世界中が鎖国状態で、そこで自分だけが良ければって考え方がはびこっていったら、きっと人間は終わりです。

――うーん。

CMJK:利他的な考えを持とう、という思想家もいたんです。人のために生きる・誰かのために生きるのが、人間にとっていちばん幸せだ。その根元に立ち戻ろう、そうしたら人間は大丈夫だと。今回のことはあまりに多くの犠牲を強いているけれど、将来のための良いターニングポイントになったと思えるようにしようと、三人ともが言ってました。これはアルバムとは関係のない話ですが、僕も全くそう思います。

まさかEBMで来るとは思わなかった

――そしてアルバム『2121』です。いつもだと、“あ、この曲は……”など一つ一つ考えるのですが、今作はそんな余裕もない間に全10曲が塊のように飛んでくる印象でした。

CMJK:そうです。『2121』は、一冊の小説・一本の映画を撮るようなつもりで作ったので、1曲目から10曲目までで一つの作品というのはすごく意識してます。まさに塊です。

――とはいえ、それぞれの曲についてもぜひ聞かせてください。まずは「Dug」。

CMJK:デトロイト・テクノがベースになってるんですけど、グレゴリオ聖歌っぽい、中近東っぽい肉声を入れたり。歌詞では“遺跡を発掘した!“って歌ってるんですよ。たぶん、この未来は荒涼としてて何も無くて。ところが掘ってみたら文明が出てきて、“昔はこんなに栄えてたんだ!?!?“ってびっくりする。そんな曲です。

――昨年リリースの「Fish」が2曲目、続いて3曲目はアルバムタイトルで先行シングルでもある「2121」。iTunes、Amazonランキングでの1位おめでとうございます!

CMJK:ありがとうございます。まあ、1位になんなくっても良かったんですけど(笑)。

ピコリン:いやー(笑)。

――サビでは、CMJKさんも重く太く歌われていて。

CMJK:いやいや、CMJKさんだけではああはならないですよ。ピコリンと、あとオジサンを2人呼んで、4人で1本のマイクを囲んで歌って、それを6回も7回も重ねてるんです。

――初歩的な質問ですが、4人で一斉に録るというのは……?

CMJK:1本ずつ録るとタイミングがキレイに合いすぎて、人数感が出ないんですよ。ズレとかが人数感を生むわけですから、4人でマイクを囲んで“せーの”で歌う。たまに仕事で、ガヤなのに1本1本送ってくるのがいて(笑)。“バカ野郎! 全員でブースに入ってもう一回録りなおせ!”みたいなこともあります(笑)。

――歌詞の世界が強烈ですね、人々が培養液の中につかっている。

CMJK:何かしらの理由があって、カプセルの培養液につからなきゃいけない世界なわけじゃないですか? 生命維持装置の中で生かされている。つまり、そうさせる圧倒的な力があるはずなんですよ。ファシズムのような。それを大人数のコーラスで表現しました。

――STAY HOMEな今、ただ家にいる日々が続く中で、自分が何かの役に立っているのだろうか? 生きるっていうのはどういうことなのか? と考えることが多く、培養液の中で動けない人に重ねてしまいました。

CMJK:そんな風に考えてもらえると嬉しいです。

ピコリン:僕は今回、まさかボディがくるとは思わなかった。

CMJK:Electronic Body Music(EBM)というジャンルがありまして。

ピコリン:昔に演ってたけど、デビュー後はずっと演ってなかった音楽だから。

CMJK:EBMは昔の音楽だけど、近年ヨーロッパでリバイバル・ブームみたいになってて。そういうのを聴いて、いいなー、自分もやりたいなとシンプルに思った。

AI美空ひばりも、ギクシャクしなくなったら文句を言われない

――続いての「Sexaroid」は、シングル候補だったと聞きました。

CMJK:そうなんですよー。僕は気に入ってたんですけど、ピコリンさんが“地味っすねー”と言うのでアルバムの曲になりました(笑)。

ピコリン:いやー。潤さんずっとそう言ってますけど、僕そんなに言ってないですよね?

CMJK:そんなに言ってます!

ピコリン:最初、おとなしいって言っただけじゃないですか?

CMJK:いいよ、おかげで「Time Rider」が出来たから!

ピコリン:いやでも、アルバムの中でかなり好きですよ? シングルにすると、“Cutemenも落ち着いちゃったね” って言われたりするんじゃないかと思って。意外とCutemenファンの人って、イケイケを求めてたりするから。

――そうなんですか?

CMJK:そうかもしれないけど、応えてばっかりじゃなく、自分のやりたいことをやらないと。ユーザーのことばっかり考えるのは、Cutemenらしくないと思いますっ!

ピコリン:(うんうん)

――美しい曲ですよね。なぜだか90年代のCutemenを思い出しました。

CMJK:音は80年代の人力Electro Funkをベースにしてるんで、懐かしさを感じていただけたら成功というか。

この『2121』は、オムニバス映画のように10本の未来の物語を描いてるんですが、「Sexaroid」は比較的めぐまれた主人公の世界なんですよね。彼女はいるんだけどエッチする用のSexaroidも持ってて。嫉妬した彼女がSexaroidをぶっ壊すんだけど、法的には殺人罪は適用されない。悲しい、と。ちょっとクレイジーな話なんですけど、100年先にはそういう世界もあるかもしれないなー? と。

――そして6曲目は「Phantom」。

CMJK:やりたかったことが出来ました。打ち込みじゃなく、生パーカッションをいっぱい使ってるんですよね。空気が鳴る音とエレクトロを融合させたいというのは、「Fish」もそうですけど「Phantom」でも上手にできたなと思ってて。

――オーガニックな音というのは、昨年からずっと言ってましたね。

CMJK:そう。テクノロジーが発展すればするほど、音楽はオーガニックになっていくと思ってるんですよ。いかにもデジタルなビット数の粗さは、音楽でも映像でも無くなっていくと思う。僕は、本物なのか偽物なのか判らないようなものが最先端だと思ってて、なので今回、エレクトロと生音をまったく違和感なく融合させるのにチャレンジしたかった。あ、ちょっと難しいですか?

――はい、若干……。

CMJK:オーガニックっていうのは、よりナチュラル、ネイチャーってことなんですが、デジタルが発達すればする程それが再現できるわけです。例えばAIの美空ひばりも、まだギクシャクしてるから、みんなブーって言ってるけど、ほんとに判んなくなったら誰も文句を言わないに違いない! だから音楽も、進化するほどに空気の鳴るオーガニックなサウンドとデジタルな音が融合するはずなんです。

――むむむ。

CMJK:デジタルがオーガニックに近づくというのは、例えば今、僕の後ろのヤシの木(Zoomの背景画像)は合成っぽいでしょう? でももう少し技術が発達したら、ほんとにハワイにいるように見えるはずなんです。それを音楽でやりたい。空気感と融合して、デジタル臭さがまったく判らなくなる域まで。

――なるほど。そして歌詞の主人公、彼または彼女は自分の中の暴力性に怯えているのでしょうか?

CMJK:ですね。そろそろ、残したい遺伝子と残したくない遺伝子をセレクトできるようになるらしいんです。未来に向けて、人間の都合のいいように人間を改造していくような。ただ、『時計じかけのオレンジ』のコンセプトと一緒で、いくらそれをやっても、人間の元々の暴力性やドロドロした部分は湧きあがってくるんじゃないかな? と。

――犯罪者を隔離しても、また一定数の犯罪者が生まれるなどとも言いますよね。

CMJK:ねー。みんな、“こわいな”って言いながら、それは10年後も50年後も100年後も体験するんじゃないかなと。僕自身、若い頃はもっとカリカリしてて、そういう自分がすごくイヤで、ここ20年ぐらいは意識して直そうとしてて。何年も人に怒ったことないんですけど、いつ、何かのタイミングで自分がブチ切れるかと思うと怖くて仕方なくて(笑)。人間って変わりたい進化したいって思う生き物ですが、本質はあんまり変わんないんじゃないかなと。

オマエらは一生、現在に留まりたいのか!?

――昨年リリースの「Time Rider」は、EDM世代の若者とクラブ世代をつなげたいと話していましたが、反応はどうでしたか?

CMJK:ていうか、「Time Rider」って言葉を思いついたことにとても満足してます。これで“Cutemenは、僕とピコリンはTime Riderなんです!“って言い張れる。例えば「Sexaroid」が80年代頭のファンク、「Fish」や「Phantom」はちょっと未来の音でぐしゃぐしゃかもしれないですよね? でも、僕らTime Riderだからいいんです(笑)。

――縦横無尽なCutemenの音楽性や未来観を、言語化できるようになったんですね。

CMJK:そうです。あと、仮に今後CDを出せなくなっていくとしましょう。配信だけとか。そしたら必ず、ブーブー言う層がいるんですよ。19世紀に電話が発明されたとき、“面と向かって話せないなんて失礼な!”って層がたくさんいたんですって。今“CD出せ!”って言ってる人は19世紀の人と変わらない。まあ、CDが欲しいというお気持ちは判りますが、CutemenはTime Riderなんだから、ファンのみなさんもTime Riderであれ!!!

ピコリン:おー。

CMJK:オマエらは一生、現在に留まりたいのか!?⁉︎ と言いたいですね(笑)。

ピコリン:CutemenのTime Riderとしては、潤さんは未来から来てて、僕は原始から来ました(笑)。

――二人が時空の中で迷わずに、ちゃんと出会えてて良かったです(笑)。

CMJK:とにかく我々はTime Riderなんです!

――では曲解説に戻って「Cold Sleeper」。放射能を避けネズミを食べて暮らす、過酷な未来が描かれています。

CMJK:培養液の中にすら入れない、もっと下層の人達。その悲惨な日常を、ちょっとだけコミカルに描いてみたんですよ。ちなみにレコーディング中、ピコリンがブチ切れまして。

ピコリン:ええっ?

CMJK:この曲はサビ以外の平メロの部分が、ずーっと同じ音なんですよ。リズムの乗せ方だけが重要。こういうのピコリン苦手みたいで、歌い終わってブースから出てきてブチ切れながら“この曲ライブではできませんねー!”って(笑)。

ピコリン:だって、歌というより語ってるじゃないですか? つぶやいてる的な。もう、台詞を言うような感じで。主人公の気持ちにどれだけ近づくかという、声優の感覚でしたよ。

CMJK:だから新境地なんですよ、この「Cold Sleeper」は。僕は楽しかったです!

これが始まりだ、美しい友よ

CMJK:次の「Beautiful Friend」は唯一SFって感じじゃなくって。何もなくなった世界、でも、何もなくなったから何でも出来るんじゃないか? という、ポジティブな曲ですね。少し思うところがあって、一日で詞も曲もぜんぶ作ったんですよ。そんなことは何年かに一度しかないんです。本当に、自分がやりたいことを瞬間的に凝縮できた曲ですね。

――2020年春のいま聴くと、浄化されるというか励まされる感じがあります。

CMJK:ねー。まさかこんな世の中になって、何もなくなっちゃう人がこんなに増えるとは思わなかったですからね。でも、何もなくなったから何でも出来るというのは、いまの情景にぴったりだと思ってます。

――「Beautiful Friend」というタイトルも、美しいというか切ないです。

CMJK:実はThe Doorsの「The End」からです。This is the end, Beautiful friend~♪

――…なんと!

CMJK:ジム・モリソンはThis is the end, Beautiful friendって歌ってるんだけど、僕は、This is the beginning, Beautiful friendという歌を作りたかったんです。“これで終わりだ、美しい友よ”でなく、“これが始まりだ、美しい友よ”という曲を生きてる間に作ってみたかった。

ピコリン:アルバムの中で、いちばんドラマチックですよね。展開も歌詞も。

CMJK:いま「あつまれ どうぶつの森」って流行ってるでしょ? あれのキャッチコピーが、“何もないから、なんでもできる”なんですよ。全く同じこと言ってるぞ!? ってびっくりしました。僕の方がCMより先に作ってたけど(笑)。

――いやいやー、すごいですね。まるで世界が向かう方向を知っているかのような!

CMJK:いやいや(笑)。

――ポジティブな空気を湛えたまま、地球ではない星での未来が描かれる「Fruits Jerry Planet」と続きます。

CMJK:「Beautiful Friend」は一日で出来たのに、これは一週間かかった。作り込んだ曲です。歌詞の世界観は――宇宙に詳しい方はピンときてくれると思うんですけど――太陽より小さい赤色矮星っていう恒星がたくさんあるって近年判ってきて、そのまわりを回ってる星はずっと夕方なんですって。

――へえー、そこからの“青って色を見てみたいな”という詞なのですね。

CMJK:そうです。きっと100年後そこにも人類は移住してて、赤っぽい景色しか見たことがなくて。実際行けないほど遠くもないらしくて、研究もされてるみたいなんですよね。

――すでに研究されているんですか? 人類って、この地球から飛び出してまで生きようって、すごい野望を持つ生き物ですよね。

CMJK:研究者が言うには、全面核戦争が起こっても人類は絶滅しなくて、何人かは生き残るらしいですよ。そういう人達がどうなるのかな? って考えると、話は戻るけど「Cold Sleeper」のように冷凍されることを夢みて時を待ったり、他の星に移住したり。いろんな選択肢が考えられますよね。そう、ピコリンはこれをシングルにしたいって言ってた。

ピコリン:すごいポップじゃないですか。で、青のない世界・夕方だけの世界っていうのが、映像としてもすごく良いなと思って。キレイじゃないですか。今の僕たちにとっては、朝焼け・夕焼けっていうのはすごく神秘的だから。

CMJK:うん。でもこれは、アルバムの中の1曲かなー。すごく好きだけどね。

夢を見るっていうのは大事なこと

CMJK:最後の「From Parallel To Parallel」は、制作に2週間かかりました。自分の中では最長かもしれませんね。サックス、バグパイプなどいろんな管楽器を使ったり、シンプルなんだけど入り組んだリズムにしたり、サウンドにこだわって、トラックダウンにも非常にこだわって満足のいく出来です。

――CMJKが満足するトラックダウン、すごくハードルが高そうです!

CMJK:トラックダウンって、人によって全然違うんで。普通のエンジニアに頼んだら大きくしないだろうって音を、僕は馬鹿みたいにデカくしたりする。自分にしか出来ないトラックダウンだなっていう点では、非常に満足しています。やりきった感がありますね。

ピコリン:これ、鳥肌が立った曲です。出だしのアレンジを聴いて、“ヤベえな!”ってゾクゾクしました。歌が入るまでが長いじゃないですか? そこがヤバくて、ライブの1曲目でやりたいって言ってるんです。

CMJK:ライブ出来るかわかんないけど、やれるならそうしましょ。

ピコリン:オープニングがこれだったら、ゾクゾクするなって思いますよ!

――この「From Parallel To Parallel」は、10の未来の物語のなかでいちばん希望があるように思えました。ずっと醒めなければ、自分の意識の中で生きていける……というような。

CMJK:うん、いちばん希望を持てるかもしれないし、いちばん絶望的な世界かもしれない。『2121』の世界って、現代に生きる人が一瞬考えたパラレルワールドの話かもしれない……っていう。

――この10の物語も、錯覚かもしれないという?

CMJK:はい。アルバムを作っててつくづく思ったのは、なかでも「From Parallel To Parallel」は顕著に現れてるんですが、人間ってね、どんだけ恵まれててもどんだけ苦しくても現状に満足しない生き物で、だからこそ夢を見るんだろうなーっていう。それが、いやというほど自分で判りました。まあ、人生は何があるか判らないですからね。『2121』を作って、そして今みたいな状態になっても、夢を見るっていうのは大事なことなんだなってつくづく思います。

――ピコリンは完成した作品を通してどうですか?

ピコリン:今作が最高傑作っていうのを、デモを聴いた段階から感じてました。最初にタイトルだけ送られてきて、下にいくほど文字が広がってたんですよ。

――ホントだ、1曲目が3文字の「Dug」で、10曲目が「From Parallel To Parallel」。iTunesのタイトルがグラフのように美しいです! 計算されつくしてますね。

ピコリン:潤さんは、未来からきたから頭脳派なんです。僕は原始から来てるんで感覚派なんですけど。

CMJK:ははは。

ピコリン:自分でやろうと思ってもできなくて、“こうして”ってディレクションしてもらって上手くいく。僕は脳ミソを使わないんだけど(笑)、潤さんがぜんぶ引き出してくれてます。

CMJK:アーティストって、クリエイタータイプとプレイヤータイプの人がいて。ピコリンはパフォーマーとして優れてるんで。僕はクリエイトの方が楽しいんで太り放題です(笑)。

今は世の中の方が映画みたいになってる

ーー状況が良くなることを祈るばかりですが、6/13(土)大阪club vijon、6/19(金)代官山UNITでリリースライブが予定されています。

CMJK:いやーどうでしょう、やりたいですねー。GW明けに判りますかね? こればっかりは何とも言えませんね。もし無理だった場合は、配信なんかも考えなくはないです。何もしないよりは、喜んでもらえるんじゃないかなと。でも今ライブは悪者だから……どうですかね。

――音をリリースしてライブをやって。あたりまえだった日常が、一般社会で槍玉にあがったことで一変しました。単純に集まれないというだけでなく。

CMJK:ギターケースを持って電車に乗っただけの高校生が、見知らぬ人に叱られるらしいですからね。『2121』ってアルバムの内容より、現実の方がもっとめちゃくちゃです。僕がこれまで頭の中で描いてきた世界より、今のほうがよっぽどディストピアですよ。

――これまで色々想像したことのある暗い未来の、ずっと上をいくディストピア感があります。

CMJK:だからこそ人間は夢を見るんだと思うし、夢を見るからこそ人間は人間でいられるんだと思います。あと「Beautiful Friend」の歌詞じゃないですが、みんな色んなものを失うかもしれないけど、何もなくなったところからだったら何でも出来ますよ。それはずっと思ってきたことで。なので『2121』を聴いて、退屈な毎日に刺激と(笑)、ほんのちょっぴりの希望を持っていただければなと思います。

ピコリン:同じくです。

CMJK:何それ!?!?!?

ピコリン:あの、この『2121』は映画みたいだと思ってたんですけど、今は世の中の方が映画みたいになってる。

――本当にそうですね。

CMJK:世の中が、わたくしどもの世界観に近づいてきちゃった。

ピコリン:うん。

CMJK:それは、望んでなかったんですけどね。

ピコリン:秋にレコーディングしてたときは映画の主人公を演じてるつもりでいたのに、今……出てきちゃった(笑)。映画から出てきた感覚があります。

(構成・文/元生真由)

Cutemen『2121』

2020年5月27日(水)発売
22CT-50 全10曲収録

  1. Dug
  2. Fish
  3. 2121
  4. Sexaroid
  5. Phantom
  6. Time Rider
  7. Cold Sleeper
  8. Beautiful Friend
  9. Fruits Jerry Planet
  10. From Parallel To Parallel